日本血液代替物学会会長
奈良県立医科大学医学部 教授 酒井 宏水

Hiromi SAKAI
President of the Society of Blood Substitutes, Japan
Professor, Department of Chemistry, Nara Medical University

2018年度より会長に就任いたしました。血液代替物の研究を力強く先導してこられました、土田英俊先生(早大理工)、小林紘一先生(慶大医)、武岡真司先生(早大先進理工)に続いての大役を仰せつかり、身の引き締まる思いです。


さて、本学会は、血液のあらゆる成分の代替物の実用化を目指し、医薬系・理工系の研究開発者、臨床医が、物質のデザイン、製造法、非臨床・臨床試験プロトコールと成績評価、様々なガイドラインについて討議する学際的な学会として1993年に設立されました。当時の設立趣意書(人工血液1993;1(1):9)に記された発起人の諸先生の熱い思いは今日に受け継がれ、、毎年開催される年次大会でも、熱い討論が繰り広げられています。学会誌「人工血液」は、国内主要図書館にも蔵書され、ホームページでもバックナンバーは無料で閲覧でき、高いアクセス数を誇っています。2019年には、第17回国際血液代替物学会(International Society of Blood Substitutes, ISBS)を奈良で開催しました。ISBSは、過去に土田英俊先生(1997年), 小林紘一先生(2003年)が東京で開催したことのある国際学会です。COVID-19が発生する直前に開催でき、世界各地からの参加者を集め、日本の血液代替物研究の成果を世界に発信することができました。


日本には世界に誇れる血液代替物研究の長い歴史があります。1950年頃に北海道大学の蓑島高先生が初めて、酸素運搬、血液凝固、コロイド、電解質、栄養成分、浸透圧などを考慮した「人工血液」を提唱しました。1980年代からは、献血血液由来の成分の有効利用の観点から、当時厚生省の血液研究事業として、ヘモグロビンを利用する研究が開始されました。1990年には、いわゆる「白い血液」とよばれるパーフルオロカーボン乳剤が世界で初めて認可されました(1993年製造中止)。また、わが国では薬害問題や大震災の経験から、血液製剤の安定供給を目指す方針が掲げられ、2002年 改正薬事法:衆議院厚生労働委員会決議 (医薬品・医療機器の安全対策推進に関する件)には、「五. 人工血液についてはその有効性及び安全性が確保されたものの製品化が促進されるよう、研究開発の促進をはかること。」が記され、国策として推進されるようになりました。遺伝子組換え技術を用いたり、ES細胞やiPS細胞からの血液成分の産生も試みられています。


本学会では、新しい物質系や治療法が提案され、また現行医療の課題を解決して患者さんを助けたいと願う臨床現場からの熱い思いが共有され、研究開発の意義が明確な本研究領域の裾野は益々広がりつつあります。本学会の趣意にご賛同くださる方のご入会を心よりお待ちいたします。